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大根おばさん

大根おばさんというのは、たおくんが小さいときに、よく大根とか野菜を持って実家に現れて、「大根おばさんだよ!」と子どもに覚えてもらって愛されようとしてた、わたしの叔母のことだ。

母方の親戚松永と、あんまりそりが合わなかったわたしは、古い家への憧れとともにコンプレックスもあり、若い時はまったく親しくなかったけれど、ある時期から、大根おばさんにだけ少しづつ懐くようになった。

その理由は、おばさんがときどき実家に差し入れた、てづくりのおせちや漬物みたいなものが、ちゃんとした美味しい味だったからだった。

わたしは実家で、インスタントの味しかほとんど経験したことがなかったから、ちゃんと作られたおせちの味には慣れていなくて、気づくまでに結構時間がかかったんだと思う。

 

大根おばさんは、けっこう人とガンガン関わろうとするひとで、それを嫌がるひとも多かった。まいのお母さんとかは、そういうのを面倒だとしていたから、絵面的には、みんなにアプローチしては振られる、どちらかというと私に似ているところがあるおばさんだった。

嫁に、孫を見せにきてもらえなくて会うたびに嘆いていて、孫に会いたいのに会わせてもらえないってこんなに辛いのか。とよく思ったものだった。

 

むかしおばさんちのだいだい(:いよかんのような、柑橘の一種)と、これでポン酢を作ると美味しいんだよといって、自家製のだし醤油を持たせてくれたことがあった。

そのだし醬油とだいだいポン酢は、本当に美味しくて、あっというまに無くなったあとも、ずっとそのことを考えていた。

 

お母さんが寝たきりになって、半年以上も会えずにいたおばさんは、妹(まいの母)のことを心底心配していて、何度も無理やり会いにこようとしていた。

具合の悪い母は、しんどいので当然ひとに会いたがらず、そんなときにおばさんは、一度たまたま実家に足を運ぶことに成功した。

 

いつものように、近所のパン屋のパンを手土産に来たおばさんは、まるで別人のようになってしまった衰えた様子の母をみて、ショックを受けた。

ひとは、病気になり数ヶ月経てば、元の気丈さも消え果てて、骸骨のようになってしまうこともある。わたしも最初はショックだった。

それでもお母さんはまだ生きていて、ふつうにご飯も食べるのだから、ある意味この生命の力強さはすごいなとおもうようになったのは最近だ。

 

その日大根おばさんを、母に無断で実家に招き入れたのは、古い着物を処分したいけどどうしていいかわからなかったことや、だいだいポン酢の作り方を訊こうと思っていたからだった。

手際よく、古い着物の取捨を手伝い、必要な分を引き取ってくれた大根おばさん。あたりまえのように、そうして物を保管したり、いるものを見分けたりすることは、その世代にしてみたら当たり前のことなのかもしれないが、片付けができないわたしにとって、それは神々しいほどにすごいことだった。

 

長年どうしていいかわからなかった、若い頃買った着物はみるみるうちに片付いて、22の時に、初めて自分で仕立てた結城紬だけは自分で持ってなさいと言ってもらった。シックなグレーの紬と、下の襦袢は淡いピンクの、すごく自分ぽい着物だった。

 

そしてわたしはいよいよおばさんに、だいだいポン酢の作り方を訊いた。

尋ねると、最近は自分でだし醤油はもう作っていないらしい。ある時期から買ってくるようになったみたいだった。

 

作り方を聞くと、「うーん、てきとう」と言われ、

”なんとなく”が全て

でも書いたとおり、やはり彼らは”なんとなく”神がかった行為を常日頃からするのだ!とそうおもったわたしだった。

 

一応おばさんの口述を記しておくと、

 

煮干しの汁やカツオのダシに 醤油をいれて

みりんと酒で味を整える

 

それを みかん だいだい カボス などの果汁とまぜる

ゆずは甘みが足りないので、その分みりんやらで調節するなど。

 

分量に関しては、情報はまったく得られず、日本のダシ初心者、まったく知識がないマイにとっては、1000年まえのピラミッドの宝のありかの暗号みたいになったなと思った。

 

その日帰りにおばさんちによって、庭で取れたはっさくとオレンジをもらうことになった。

だし醤油も必要だったが、今作ってないとのことであればいたしかたないと思い、とりあえず柑橘だけをもらいにいくと、おばさんはなぜか居なかった。

結局事情を知らないおじさんが、柑橘をいくつか持たせてくれて、帰ろうとすると、道でおばさんにすれ違った。

なにごとかと思っていると、なんと息を切らして出てきたのは、大きな市販のだし醤油を抱えている大根おばさんだった。

 

「おすすめのやつがあったけど、名前がわからなくて、スーパーで買ってきた!」

 

そう言って、わざわざ姪っ子のために、だし醤油を買ってきてくれたおばさん。

 

 

調味のもと、と書かれた、おばさんが買ってきてくれてそのだし醤油は、はじめてわたしの家にやってきた、クフ王の家宝みたいになった。

 

ていねいに皮を剥いたハッサクと混ぜた。

そのはっさくの果実はすこし苦くて、毎回入れる柑橘によって味が変わる、古代ピラミッドの秘宝、だいだいポン酢。

 

 

半年ぶりに母の顔を見たおばさんは、あとからわたしに、

「なんであんなふうになるまで、病院もいかんとそのままにしとったん」と半分怒りまじりに、涙を浮かべてた。

実家では、一切感情を出さずにしていたから、すこし驚いて、

いのちを大切にするひとの、本当に家族を大切に思うひとの、素直な反応はこういうものだったということを思い出した気がした。

お母さんが病気で寝たきりになったことをちゃんと悲しんだひとをわたしは私以外に初めて見て、おばさんに、ありがとうと思った。

 

 

ひだりが調味の素。大根おばさんおすすめのだしじょうゆ。まじでこれ一本で全部つかえるくらい万能の味付き醤油。

右は昔から使ってるふつう醤油。近所のスーパーで昔は買えたけど、最近はネット。

 

Hello! It's Mai.

世界中に愛と癒しが行き渡り、みんなが支え合って生きてゆけますように💕
Mai

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