カシス、というのは、日本ではあまり見かけない。 カクテルとか酒に入れるときくらいしか、耳にしたことはない。
我が家の定番のスコーンは、カシスとキヌアが入ったものだ。
スコーンの具は、ナッツやチョコレートやドライフルーツ、どれも自由自在に組み替えることができるため、決まったものを入れる必要はない。
その時々で、チーズやネギのはいった食事っぽいものや、オートミールやブルーベリーが入ったいかにもアメリカっぽいもの、チョコと胡桃が入った幸せ度100のものやら、無限のバリエーションがあることが魅力だ。
もうひとつスコーンのすごいところは、パンとクッキーの合いの子であるため、朝ごはんにも完璧で、小腹が空いたときのおやつにも完璧である水陸両用みたいなハイブリッド感がいいのである。それは日本でいうところの、みたらし団子とかおはぎっぽい位置付けで、パンを焼くほど手間はかけたくないけど、朝ごはんにパンケーキやグラノーラに飽きたときにも重宝する。
カシスは英語で、currants という。生の実をソースにしたりするレシピもあるが、わたしがいつも使うのはドライフルーツのカシスである。見た目はちょうど、レーズンをシュッと小ぶりにするか、ドライフルーツのブルーベリーがちょっと大きくなったような錯覚を起こすような見た目だ。
わたしが最初にBakingや料理の経験を蓄えたのがニューヨークだったため、デフォルトの黒いドライフルーツの実はカシスということになっている。
つまり、カシスがデフォルトだと、ブルーベリーはカシスが縮んだ感じ、レーズンは、カシスが何らかの不備で膨張した感じともいえる。
どんな味かというと、それはブルーベリーの優しさに、キュッとヒネりを効かせるか、クランベリーの鋭い酸っぱさに疲れたときに、半分優しさを詰め込んだようなそんな味だ。
ブルーベリーのユニバーサルさに心も身体も安心したいときはもちろんある。
クランベリーがしっかりパンチを効かせてくれて、ハッと鮮やかな世界に気づきたいときももちろんある。
でも、カシスは、そのどちらでもないけれど、ベリーが必要な時に、いつも、ずっとそばにいてくれるのだった。
中庸、という言葉があって、陰陽のどちらにも傾いていない状態のことを言う。
調和とかバランスという意味だ。
水陸両用と書いたスコーンの存在と同じように、そのバランスを備えているベリーが、カシスだと思う。
色々な具材で試すものの、カシスに勝るスコーンとの相性の良さは他にないので、最後ここに落ち着くというわけだ。
ヴィーガンやグルテンフリーの世界でたくさんの粉に触れた中で、スペルトという粉があって、店ではよくその粉を使い焼いた。ぱっと見普通の小麦粉や強力粉と変わらないのに、アレルギーの要因とされるタンパク質のグリアジンが少ないので、アレルギーが発症しにくいという粉である。
アレルギーや体質や宗教や嗜好やさまざまな理由で、必要な食材を回避しなければいけない人たちに向けたレシピを、当時数えきれぬほど作った。
あたりまえに小麦を使ったスコーンが食べられることが当たり前ではないことや、代用したもので同じバリエーションを展開できることに日々感動する。
それは、制約のある食事は、ユニバーサルな愛により、限定された内容ではなく無限の可能性に満ちていることを学ぶ旅だった。
この世界で必ず制限のある身体や生命と、どう豊かにつきあってゆくかを、とことん追求することは、料理以上のことをたくさん教えてくれた。
キヌアのスコーンのレシピは、そんなスペルトと合わさったときに、必然的にカシスと組み合わされるような、何故かはわからないけどみつ豆にはあんことアイスクリームが乗るような、そういう組み合わせなのだ。
小さなころはもっとわかりやすい素材を使ったものを美味しいと言った息子が、10歳頃になり開花した。ものごとの本質にたどりつけるようになり、エゴと愛の区別がつくようになり、Awareness、気づいている状態で日々を過ごすようになり始めた頃、
「このスコーンは、美味しい」とそう言った。
いつも、色々な具材を使い分けて食卓に飽きが来ぬよう華やかにするのもいい。
でも、いつも同じ具材の入った、定番の安定した食卓があることは、わたしたちの生命を確実に安定した世界へと繋いでく。
長年焼き続けているカシスとスコーンのレシピ。
この先もきっとずっと焼き続ける。
ドライカシスは、普通のスーパーでは売っていません。
でもネットで検索すると、製菓材料の店やアマゾンなどで必ず売っています。
いつも常備して、パンやスコーンを焼く時に入れるのが定番です。
(レシピ)
カシスとキヌアのスコーン レシピ
・薄力粉 80g
・強力粉 80g
・バター 50g
・てんさい糖 40g
・ベーキングパウダー 小さじ1
・塩 小さじ1/8
・卵1個(S~M)
・レモン汁 大さじ1
・バニラオイル 小さじ1/2
・(卵のサイズによって)豆乳 大さじ1
・たまごの黄身(焼く前に表面に塗る用)
・キヌア 60ml
・ドライカシス 60ml
①バターと粉をサブラージュする(固いまま1センチ角に切ったバターを、粉の中でパン粉状にする)
②全ての材料を混ぜて、1〜2時間冷蔵庫で冷やす
③成形したら表面に卵の黄身を塗る
④200℃から220℃のオーブンで、15分程度焼く
<Original Recipe>
Soda Bread Scone
・1.5 cup FL
・1/4 cup butter
・1/4 cup sugar
・1 tsp B.Powder
・1/8 tsp Salt
・1 egg
・1/4 cup currants
・1/4 cup quinua
・1Tbsp Lemon juice
・1/2 tsp Vanilla
・1Tbsp Milk
egg yolk on top
Heat oven to 400F to 450F
15-20min bake