愛に、賞味期限があるとしたら、それは、消費期限くらいに短いか、
それか、剥きたての、いろが変わるまえの瞬間の
ほんのりピンクがかった、淡い乳白色の、桃くらいに
はかなくフレッシュで、ジューシーなものだと思う。
それはそれは水水しく鮮やかで、一度食べたら忘れられないくらいに喜びに満ちていて、おなかを壊すくらいに食べたいのに、そんなには食べられなくて、
そして季節が過ぎるとあっという間に姿を消す。
次に口に入って同じ初夏の記憶をむさぼり味わえるのは、一年後になる。
愛は、どちらかというと、永遠であると同時に
そのくらいに、「今この瞬間」に属している。
ボヤッと突っ立って、美味しそうだなと眺めていたらそれはあれよあれよと色が変わり、さっきまで芳しい匂いをそこらじゅうに撒き散らしていたのが、嘘みたいに
色褪せていく。
じゃあ、どうしたらいいんだろう。
食やいいんだよ。
目の前に現れた瞬間に、かぶりついて、口の周りをべちょべちょにしながら、味わえばいい。
めちゃくちゃめちゃくちゃおいしかった!また食べたい!と叫べばいい。
そして無くなったら、おいしかったなあと思うだけでよい。
また食べたいなあと思いながら、空を見上げていたら、次は大粒のブドウの季節がやってくる。
愛を前に、それが一瞬で消え失せたことにがっかりしたことが、きっと長い人生の中で一度や二度、誰もが体験したことがあると思う。
そして、あまりに特別でスイートな体験だったから
それが失われたことが信じられなくて、絶望したかもしれない。
でもね、愛って、そういうものなの。
ふたを開けておいたらあっというまに溶けちゃうアイスクリームみたいに
味わったら消えてどこかへ翔んでいくものなんだ。
心配しなくていいことは、毎年夏はやってくることや、ももがスーパーから消えた時にはもう次の果物が並んでいること、そして、
今この瞬間を全力で過ごしている人にとって
それは絶え間なく続く、永遠にみえるものに変わっていくってことなんだ。
それは、缶詰に入った何年も賞味期限の長い、乾いて死んだ非常用食品じゃない。
いつか、食べようと大事に押し入れの奥にとってある、とっておきの乾パンみたいにして、使うものじゃないんだよ。
一瞬で、消えるそのダイナミックな味わいだからこそ
今味わうんだよ。
今この瞬間にしか、何も起こってない。
それだけは、約束するよ。