あのときわたしが、幸せだったのは
きっと
多分
いまよりもずっと、なにも持っていなかったからなんだろうと思う。
そして、次第に重くなっていったわたしは、
その重みに耐えきれなくなって潰れて、
あとかたもなく消え去って、
そして
もういちど、いつか植えた種が少しづつ
芽吹くのを、空っぽの手のひらで、待っている。
たおくんは、大きくなった。
いつかとっくの昔に、わたしよりも大人になっていたんだ。
はじまりはいつも、あの2人ではじめて引っ越したばかりで
机も家具も、なにもなかった場所に
清々しく差し込む春の光のように
軽やかであってほしい。